ガンは生活習慣病である
末期癌克服への懸け橋
現代は、私たち自身のライフスタイルが大きく影響する「生活習慣病」の時代と言われており、ガンもその一つです。
前述の日本人における死因の変化を示したグラフを見かえしていただければおわかりだと思いますが、何十年か前までは、結核を代表とする伝染病が世界中で猛威を振るっていました。結核のように大量の人を死に追いやる病でなくても様々な後遺症を残すようなものが多く、医学界は総力を挙げて感染症の撲滅に力を注いできました。日本においては、医療の発展だけでなく衛生事業の整備、そして何よりも栄養状態の改善による体の防衛力の増加もあり、現在では感染症に対し優勢だといえます。
感染症は、細菌やウイルスなど「外部の要因」が体内へ侵入することを原因としています。しかし、最近急速に増加しているガンや糖尿病などの生活習慣病には、私たちの日頃のくらし方、つまりライフスタイルという「内部の要因」が大きく影響していることはすでに述べました。外部からの細菌やウイルスと、内部のライフスタイルは似ても似つかないものですから、当然治療や予防に対するアプローチが変わってきます。
予防医学というのは、病原菌などの特定ができなかった古い時代からある医学の分野で、「人々の健康を保ち、体の防衛能力を上げ、病気にかからない」ように人々にいろいろな指導をするものです。
感染症の時代も、「かかってしまう前に……」ということで様々な予防がなされました。まず始めに感染する原因にできるだけ触れないようにすること、そして次に栄養状態を良くして体が感染しにくいようにすること。この二つがメインとされてきましたが、いろいろな薬が開発されるにつれ、決定打となる予防接種が国や自治体をあげてなされるようになりました。皆さんの中にも小さいときに学校で受けたことのある方が、非常に多いのではないでしょうか。
このように感染症の予防は大変効を奏し、人類と感染症の戦いは今のところは人類に優位なようです。
感染症の時代と、生活習慣病の時代といわれる現代とでは、予防法に大きな違いがあります。感染症の時代の予防は「予防接種」という医療行為が有効であったといえます。この予防接種というものは、いわば「受身」の予防です。また、病原菌というある特定の原因を予防するのですから、「人によって予防法が違う」などということはありません。つまり、受身でみんな同じ予防というものでした。言い換えれば、予防法を考える必要がなかった時代といえるのかもしれません。また、今のように飽食の時代ではなかったので、栄養に関しても「食べて病気になる」現代とはとらえ方が異なっていたこともいえるでしょう。
しかし逆に、生活習慣病というのは私たち一人一人の違ったライフスタイルが大きく関係します。ライフスタイルの改善という予防は、私たち一人一人が、
・「受身」ではなく「自分で実行する」
・「みんな同じ予防」ではなく「自分なりの予防」
を考える必要があるのではないでしょうか。
ガンも生活習慣病の一種ですので、予防を考える際には今述べたような「一人一人ライフスタイルは異なるのだから、自分が主体になって改善していく」という基本姿勢が大事です。ここではガンの予防の特徴について述べていきたいと思います。何度も述べてきましたが、私たちが二十歳になる頃には、将来長い年月をかけて大きくなる可能性のあるガン細胞の元が、体の中にいくらかできていると言われています。
60兆の細胞からなる私たちはある意味、ガンから逃げることはできません。ですから私たちが「ガンの元ができる」のを予防することはかなり難しいと言えます。それよりも有効性が示されているのは、「ガンが大きくなるのを防ぐ」という予防です。このガンが大きくなるのを防ぐという予防には次に示す二つのアプローチがあります。
1.ガン細胞を大きくする物質(プロモーターといいます)を体に近づけないようにすること。例:禁煙など
2.免疫機能(ガン細胞の増殖を抑える働き)を落とさないようにする。つまり、免疫力を下げない努力をすること。例:ストレスをためこまないなど
このアプローチはどちらも、もちろんガンだけでなく他の生活習慣病にも共通する部分があります。
ではまず、ガンを大きくする要因(プロモーター要因)についてお話しします。現在日本では、非常に多くの方々が肺がんや消化器官系の病気でお亡くなりになっています。肺は直接外気を吸い込みますし、消化器官は食べ物という外からの物質が直接に通過し、消化、吸収、排泄されていきます。
R・ドル卿とR・ピート氏が米国で行ったガンを大きくする要因の研究によると、
・食生活に起因するものが35ハーセント
・タバコに起因するものが30パーセント
・慢性感染症やウイルスに起因するものが10パーセント
という結果が出ています。一目瞭然ですが、食生活と喫煙という二つのライフスタイルだけで、なんと65パーセントもの方がガンになっているということです。まさかと思われる方も多いと思いますが、他のいろいろな研究と比較してみても間違いはないと言われています。
もう一つのアプローチとして、「体を守る」免疫力を維持してガン細胞をやっつけるものがあります。前にも書きましたが、この免疫というものは、「体の中に有害なものがあると攻撃する生体防御システム」です。ですからこの免疫力が強ければ体にとって有害なガン細胞は攻撃され、成長が抑制されます。逆に弱ければ、ガン細胞は抑制されずに大きくなります。
この免疫力も免疫細胞という細胞の働きによりますから、当然老化すれば弱くなります。年をとれば風邪を引きやすくなるというのはこのためです。
またストレスを溜め込むといろいろな病気を引き起こしやすくなるというのも、「ストレスが免疫力を低下させ、いろいろな病気にかかりやすくさせる」と言い換えることができます。
よく閉経後の女性が、家庭や職場のストレスを溜め込みすぎてガンになる例を耳にしますが、それは抗がん作用のある女性ホルモンが出なくなることだけでなく、ストレスや老化で免疫力が下がり、ガンの元が一気に大きくなるからではないかと言われています。
他の生活習慣病と同じで、ガンも進行していけば何らかの医学的治療が必要となってきます。しかしどんなときでも、ライフスタイルを改善すると治療成績が良くなることが報告されています。アメリカでは厳格な食事療法(ゲルソン療法)を行っているところもあり、治療の一つの選択肢として考えられることもあるようです。また、サイモントン療法という患者さんの精神状態を良好に保ってストレスを溜め込まないようにし、免疫力が弱くならないようにする治療法も報告されています。普通の治療を施すときにもこの心理療法を併用した方が治療成績がいいと言われています。
この二つの治療法は、医学的治療というよりはライフスタイルに重点を置いたものですが、このことはガンと向き合うときに、いかにライフスタイルをよく保つことが必要かを示しています。
ライフスタイルを点数化して評価する方法は、非常に多くのものが報告されています。ここでは比較的簡単で実効性のあるものとして、大阪大学環境医学教室のまとめた8つの健康習慣をとりあげます。皆さんのライフスタイルとどのくらい一致しているか、調べてみましょう。次の8つの習慣のうち、実行しているものの数を数えてください。
①毎日、朝食を食べていますか?
②一日平均7、8時間は眠っていますか?
③栄養のバランスを考えた食事をしていますか?
④煙草を吸わないようにしていますか?
⑤運動を定期的に(週一回以上)行っていますか?
⑥お酒はほどほどに飲んでいますか? 目安として一回に飲む量がビール大ビンー本以下、または日本酒一合以下)
⑦労働時間は一日平均9時間以内にとどめていますか?
⑧自覚的なストレスは多くありませんか?
判定
・7-8点の方 たいへん健全なライフスタイルです。生活習慣病の予防に最適だといえます。
・5-6点の方 平均レベルのライフスタイルだといえるでしょう。これからは一つでも改善するように頑張ってください。
・4点以下の方 かなり要注意のライフスタイルを送っていると思われます。思い切ったライフスタイルの改革が必要でしょう。
今までのデータや説明から、ライフスタイルが生活習慣病の発症、進行にいかに大きな影響を与えているかをおわかりいただけたと思います。誰の体にも二十歳になればできてしまうガンを大きくしてしまうかどうかは、私たち次第なのです。
また、ガンが検査で見つかるようになるくらい大きくなっても、ライフスタイルを改善していくことで増殖を抑えることも可能です。逆に、いくらいい治療を受けてもライフスタイルの改善なしにはガンの縮小は望みにくいですし、また、再発する可能性も高くなります。
つまり、ガンと向き合うときには、その増殖の原因となっている生活習慣を自分でしっかり検証して改善していかないと、治療成績も上がらないということです。医師の治療だけでは本当に治ったとは言えないのです。自分自身の健康を左右するライフスタイルは、自分で管理しなければ決してよい治療成績は期待できません。次の節で具体的な改善法について参考になると思うことを紹介します。
大阪大学大学院医学系研究科社会環境医学教授 森本兼曩先生からのコメント
私は、今まで社会医学という分野の研究をしてきました。社会医学とは、大きく分けて医療保険や皆さんの健康状態を調査し、政府として、そして個人としてどのような対策をしていけばよいのかということを追求する医学の分野です。その中でも私は、「健康を保ち、増進させるためのライフスタイルを作るためにはどうすればいいのか」ということを研究しつづけています。この分野は、皆さんの人生において、身体的にも精神的にも、皆さんに影響を及ぼす要因の影響を研究していくものです。
そして、長年の研究の中で、やはりガンや糖尿病などの生活習慣病の発症や進行には、皆さんの生活環境、そしてライフスタイルが大きく関与していることが証明されてきました。よく、ストレスが免疫力に関連があり、治療成績を左右する側面があるということなどをメディアを通じて聞かれたことのある方も多いと思います。一卵性の双子は遺伝的には全く同一ですが、生後にその二人が歩む人生は全く異なったものでありますから、その人生の中で起こる出来事の影響で彼らが遭遇する病気も変わってきます。このたとえからも、病気における環境要因の影響の大きさを感じていただけるのではないでしょうか。
「朝食ぬきが全ての機能を低下させる」ことはご存知の方も多いでしょう。「血糖値を下げないようにして体を目覚めさせるためにどうしても必要」であるということをご存知の方もおられると思います。また皆さんの中には学生の頃、朝ご飯を食べずに学校へ行き、体育や朝礼などで倒れたことがある方もおられるでしょう。朝食をとらずに仕事にとりかかって、ボーツとしたり、クラクラした経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
最初に書いたように、朝食をとる最大の効果は「血流中の糖濃度(血糖値)を低くしないように保ち、体中の細胞に栄養が行き渡るようにするため」です。しかし、それがどうしてがん予防と関係があるんだ、とお思いになる方がほとんどだと思います。
その答えは、体が全てつながっているということにあります。つまりこの場合、血糖値を維持するために、体の他の部分が埋め合わせをしようと働くのです。また、朝食をとらない分、昼や夜にまとめて食べることになると思いますが、そうすると、体は非常に多くの量の食物を消化し、吸収しなくてはなりません。これが習慣(ライフスタイル)になると、体のある部分に負担をかけ続けることになります。そして知らないうちに、その部分に病気の因子が溜まっていくのです。
この、朝食をとるということと、がん予防の関係がわかりづらい方も多いかもしれませんが、このように一見想像しにくいものが強い影響を及ぼすのも生活習慣病の特徴なのです。
人によって睡眠時間は異なりますが、毎日8時間が平均とされています。つまり、ほとんどの人が人生の三分の一を睡眠に費やしているのです。人は眠らなくても生きていけるという実験を続けていた方もおられましたが、続けているうちに亡くなってしまいました。やはり私たちには睡眠が必要なようです。
睡眠は私たちの生命維持に非常に大切です。睡眠中に体は傷ついた細胞を修復したり、私たちの思考の中枢である大脳を休めたりします。また、次に起きたときにきちんと活動できるように体の中でいろいろな準備をします。また、成長ホルモンが出るのも眠っているときです。その他精神的にも夢を見ることが大切など、いろいろなことがあります。よって「眠る」という行為は、ただ「座って休む」などの休息とは根本的に違うということが証明されています。もちろん、睡眠の質ということも大きく関係します。快適な睡眠をとるためにはアルコールなどに頼らずに、リラックスして眠ることが必要です。
アメリカも日本も大して医療レベルは変わらないのに、アメリカ人の寿命は日本人に比べかなり短いことが示唆されています。この最大の原因は肥満です。アメリカではカロリーの高い食事が一般的であるため、多くの人が異常なほどの肥満状態にあります。脂肪が体の中に溜まりすぎて血液が流れにくくなるなどして、体のバランスが崩れているのです。肥満は全ての生活習慣病の大きな原因です。
しかし、だからといって「脂肪をとらないようにしよう」というのでは何の解決にもなっていません。肥満の原因は決して脂肪を食べることではありません。私たちの体では常に食べたものを分解し、いろいろな働きをする物質に変えています。そして体にある脂肪は、ほとんどが余ったエネルギーの備蓄物であり、食べた脂肪がすぐに私たちの体の脂肪になるのではありません。
ですから、肥満にならないようにするには、自分が必要である以上のエネルギー量を食べないことです。そして、その量は私たちの体が知っています。俗にいう「腹八分目」という量です。
ここでは適正体重などについては触れませんが、決して脂肪食を避けることがダイエットなのではない、ということを記しておきます。また、ライフスタイルを改めるために急激にダイエットをしようとする方もおられますが、それも体のバランスを崩すことになりかねません。全てのライフスタイルの改善は「少しずつ、少しずつ」です。
大阪大学医学部附属病院栄養管理室長 石井和子先生からのコメント
現在ガンに対する取り組みはついに遺伝子レベルで行われるようになり、治癒率も日進月歩で上がっています。しかし、完全に撲滅するにはもう少し時間が必要です。つまりガンを抑えるようなライフスタイルの確立が必要になってきているのです。
ガンを含む生活習慣病を抑えるときに、食事の影響は非常に大きいものがあります。ガンを抑える食事メニューなどいろいろな方面で取りざだされていますが、最も大切なことは「食事の量と質の問題」であると思います。具体的には食べ過ぎないこと、肥満にならないこと、食べるときはいろいろな食品を摂取すること、あまりにも熱いもの、冷たいもの、辛いもの、甘いものを取り過ぎないこと、動物性脂肪を取り過ぎないこと、規則正しい食生活をすること、野菜、果物をたくさんとること、楽しみながら食事をすること等々が挙げられます。
飽食の時代と言われる現代では、ストレスが多く、生活時間帯も家族バラバラで、そろって食事をすることが難しい生活になりがちです。こういったことから、私たちは、多くの問題を抱えているのです。
ライフスタイルの改善には、食生活の改善が必要不可欠です。食生活の改善が少しずつでも進めば、ガンを抑えるライフスタイルが構築できると思います。
テレビでも新聞でも「タバコは体を傷つけます」と報道されています。タバコが肺がんを始めとする多くの生活習慣病に大きな影響を与えていることはいうまでもありません。しかし、タバコを吸っている人たちは「わかっちゃいるけどやめられない……」とよくおっしゃいます。けれども、一度肺がんでも発見されようなものなら、「命には換えられない」ということで多くの人が喫煙の習慣を捨て去ります。「なって初めてその恐ろしさがわかった」という方が非常に多いのです。しかも他の臓器なら神経が通っているので、ある程度大きくなれば自覚症状があらわれますが、肺には神経がないので、自覚症状はかなり進行した状態でないとあらわれません。そうなると「悔やんでも遅い」という状態になります。
タバコには200種類以上のガンを増大させるような化学物質が含まれています。よって、タバコを毎日吸う人は、肺にあるガンの元を毎日大きくしていることになります。肺がんのなりやすさには遺伝的な要素も含まれますが、ほとんどがこのタバコが原因であると言ってよいのです。
また、タバコの影響で肺の中が黒ずむくらいになると、体内へ酸素を取り込む効率が悪くなります。また、タバコ中の二コチンにより、血流障害がおきます。これによって体の各部分に酸素が回らなくなり、臓器が傷つきやすくなります。また、他臓器のガンの元を大きくさせる原因や、他の生活習慣病の原因にもなります。
ガンはできた部分の機能を悪くするので、肺がんは当然肺の機能を悪くします。肺の機能が悪くなるとはつまり、息ができなくなるということです。かなりの方が、この事実に気づくとタバコをおやめになります。
タバコは麻薬と同じで「常習作用」があります。つまり、吸っていないと落ち着かなくなるのです。ですから、やめようとすると少し辛い時期が続きます。しかし、ほとんどの人は三日我慢すれば禁断症状も出なくなるようです。どうしてもやめられない人のために最近では「禁煙外来」という、禁煙を指導する科を持つ病院も見られます。
仕事で疲れた後の一杯、気のおけない友との一杯を始めとして会社やサークルなどの飲み会など、私たちは非常に多くの場面で酒を飲んでいます。
酒の飲みすぎはご存知の通り、肝臓を非常に傷めます。肝炎から肝硬変、そして肝臓がんというコースは酒の飲みすぎによるガンの進行としてあまりにも有名です。そしてこの肝臓という臓器も非常にたくさんの機能を私たちの体で担っています。
しかし、酒は私たちの気分を和らげてくれますし、日頃の生活のストレスの解消として、とても重要な役目を果たしています。この毒にも薬にもなる酒との上手な付き合い方については、昔から非常にいろいろな研究がされてきましたが、やはり「酒は飲んでも飲まれるな」という言葉が酒との付き合い方の極意ではないでしょうか。つまり、自分で危険なところを認識して後は楽しく飲むということです。
アルコールの成分であるエタノールには、私たちの細胞を傷つけ、殺す作用があります。そのエタノールを用いてガン細胞を殺すような治療法もよく行われています。このことからもわかるように、あまり大量のアルコールは胃や食道の表面を大きく傷つけてしまうことがあるのです。参考としてアルコール健康医学協会の「適正飲酒のための留意点」から、「いい酒を飲む秘訣」を紹介しておきます。
・楽しい気分の中で飲む
・酒の無理強いはしない
・時間をかけて飲む
・肴を食べながら飲む
・ビールなら1-2本、日本酒1-2合、ウイスキーダブル1-2杯までにする
・夜の十二時には飲むのをやめる
・毎日続けて飲まない
・薬剤と一緒に飲まない
・強い酒は薄めて飲む
・楽しみとして飲む
昔から、「病は気の持ちよう……」などという言葉にみられるように、「心」と「体」の関係はお互いに非常に影響を及ぼし合うということが言われてきました。しかし、「周りからのサポートがあり、患者さん本人が前向きな方が病気も治りやすい」などの報告は経験的になされていただけでした。二十世紀の中ごろからカナダでセリエ博士が、「何らかの心理的な影響が、私たちの体に変化を起こさせる」ということに気づき、それをストレスと名づけました。それからストレスと健康との関係は非常に多くの研究者によって研究されてきました。
ストレスというのは、「私たちが気を引き締めるときの反応」と言われています。しかし、そのストレスも短い間ならよいのですが、長い間溜めていると私たちの体にまで大きな影響を及ぼすのです。
ストレスが溜まるというのは今ひとつピンとこない表現なのですが、仕事、家庭、交友、恋愛などの日常生活における心理的な重みが積み重なること、といえるのではないでしょうか。私たちはとても強いショックを受けたときに、「気かぶれる」という状態になったりしますが、それらは原因が解決されれば、すぐに過ぎ去ります。
それよりも恐ろしいのが、日常の中で少しずつ溜まっていき、私たちの体と心をむしばんでいくストレスなのです。私たちは少々辛いことがあっても、理性というもので抑えこんでしまうことのできる動物です。しかし、この理性というものがあるからこそ、知らないうちにストレスも溜め込んでしまいやすいのです。
皆さんのストレスはどのくらいでしょう
それでは皆さんが日々どのようなストレスを溜め込みながら生活をしているのか調べてみましょう。このテストは大阪大学社会環境医学教室で作られた、ストレスを点数化するシステムです。正確なデータに裏付けられたものなので、何らかの参考になると思います。過去一年以内に体験した生活上の出来事について、点数を足し合わせてください。
過去一年以内に体験した、生活上の出来事のストレス度の合計点が150点以内ならば、翌年に健康破綻(何らかの病気にかかること)の生ずる危険性が30数パーセント、150点~200点では50数パーセント、また300点以上では80パーセント以上だと言われています。
■ストレス度点数表
順 位 | ストレッサー | 点 数 |
1 | 配偶者の死 | 83 |
2 | 会社の倒産 | 74 |
3 | 親族の死 | 73 |
4 | 離婚 | 72 |
5 | 夫婦の別居 | 67 |
6 | 会社を変わる | 64 |
7 | 自分の病気やけが | 62 |
8 | 多忙による心身の過労 | 62 |
9 | 300万円以上の借金 | 61 |
10 | 仕事上のミス | 61 |
11 | 転職 | 61 |
12 | 単身赴任 | 60 |
13 | 左遷 | 60 |
14 | 家族の健康や行動の大きな変化 | 59 |
15 | 会社の建直し | 59 |
16 | 友人の死 | 59 |
17 | 会社が吸収合併される | 59 |
18 | 収入の減少 | 58 |
19 | 人事異動 | 58 |
20 | 労働条件の大きな変化 | 55 |
21 | 配置転換 | 54 |
22 | 同僚との人間関係 | 53 |
23 | 法律的トラブル | 52 |
24 | 300万円以下の借金 | 51 |
25 | 上司とのトラブル | 51 |
26 | 抜てきに伴う配置転換 | 51 |
27 | 息子や娘の家離れ | 50 |
28 | 結婚 | 50 |
29 | 性的問題・障害 | 49 |
30 | 夫婦げんか | 48 |
31 | 新しい家族がふえる | 47 |
32 | 睡眠習慣の大きな変化 | 47 |
33 | 同僚とのトラブル | 47 |
34 | 引越し | 47 |
35 | 住宅ローン | 47 |
36 | 子供の受験勉強 | 46 |
37 | 妊娠 | 44 |
38 | 顧客との人間関係 | 44 |
39 | 仕事のペース、活動の減少 | 44 |
40 | 定年退職 | 44 |
41 | 部下とのトラブル | 43 |
42 | 仕事に打ち込む | 43 |
43 | 住環境の大きな変化 | 42 |
44 | 課員が減る | 42 |
45 | 社会活動の大きな変化 | 42 |
46 | 職場のOA化 | 42 |
47 | 団らんする家族メンバーの変化 | 41 |
48 | 子供が新しい学校へ変わる | 41 |
49 | 軽度の法律違反 | 41 |
50 | 同僚の昇進・昇格 | 40 |
51 | 技術革新の進歩 | 40 |
52 | 仕事のペース、活動の増加 | 40 |
53 | 自分の昇進・昇格 | 40 |
54 | 妻(夫)が仕事を辞める | 40 |
55 | 職場関係者に仕事の予算がつかない | 38 |
56 | 自己の習慣の変化 | 38 |
57 | 個人的成功 | 38 |
58 | 妻(夫)が仕事を始める | 38 |
59 | 食習慣の大きな変化 | 37 |
60 | レクリエーションの減少 | 37 |
61 | 職場関係者に仕事の予算がつく | 35 |
62 | 長期休暇 | 35 |
63 | 課員が増える | 32 |
64 | レクリエーションの増加 | 28 |
65 | 収入の増加 | 25 |
この人間社会で我々が生活していく以上、ストレスは誰でも溜まってしまうものです。ですから、私たちは「体の健康」と「心の健康」を守るために、溜まったストレスを解消しなければいけません。
ストレス解消にはいろいろありますが、やはりリラックスして本人が楽しめるものが一番でしょう。スポーツや音楽など、自分にあったストレス解消法をライフスタイルの中に組み込んでいくことこそが必要とされています。特に入院や治療はかなりのストレスとなりますので、何か病院内で楽しめることを考えてみることをお勧めします。
私たちが長い間馴染んできたライフスタイルを改善することは、なかなか難しい側面があります。また、いきなり全てを変えてしまうことは体のバランスをさらに崩してしまうことになり、大変危険です。一人一人年齢も違えば性別も違いますし、価値観やストレスの感じ方も違います。ですから、まずは自分の健康を考えてみることが大切でしょう。そして自分で気にかかるところがあれば少しずつ直していきましょう。ガンが大きくなってしまった状態でも、これからライフスタイルを改善すれば必ず治療成績は上がるはずです。当たり前のことですがライフスタイルの改善、改革は皆さんが主役なのです。
大阪大学医学部附属病院代謝内分泌系看護師長 古田桂子先生からのコメント
皆さんはライフスタイル改善というと、病院ではできないものだと思っていらっしゃるのではないのでしょうか。私たちのライフスタイルが引き起こすガンや糖尿病などの生活習慣病に対しては、たとえ病院で治療をうけても、自分のライフスタイルを改善しなければ、再発の可能性が非常に高くなることが知られています。私たちは、生活習慣病で入院されている患者さんに対し、治療だけでなく病気と付き合うためにはどういう生活の仕方が好ましいか、どういう点が改善できるかなど、日々の生活を振り返りながらライフスタイルの改善に向けてお手伝いしています。病院の中での生活は、上手に過ごせばライフスタイル改善に非常に有効です。
まず、病院食は皆さんの栄養のバランスを考えに考えぬかれて作られています。よく病院食は塩気がない、おいしくないという方がおられますが、それは皆さんの日頃の食事とは異なっているのですからある意味当然です。私たちが考えていただきたいのは、一体自分の健康のためには、日頃の食事の中で改善できるのはどの部分なのかということです。
また、病院では就寝時間などが決められており、人によっては早い、遅いなどということもありますが、人間は基本的に朝に起きて活動し、夜に寝て休息するようにできています。ですから、病院の消灯時間などは患者さんの健康を最も支えることができるような時間になっています。
病院という場所は、皆さんの住み慣れたご家庭とは異なる面も多く、ストレスが溜まりやすいと言われています。しかし私たちが一人一人、ライフスタイル改善のために病院の生活を送っていけば、必ずプラスの方向に向かっていくものですし、私たちは全力でサポートしていきたいと考えています。
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癌をはじめとする生活習慣病を起こさないためには、また症状をこれ以上進行させないためには、生活習慣病の原因であるライフスタイルを改善する必要があります。
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感染症の時代、患者は医師の治療を受け、栄養のあるものを摂れば治るという側面がありましたが、現代における生活習慣病は、私達自身が自分のライフスタイルを管理して行かなければ良い結果が望めないのです。
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ライフスタイルの改善というものは、一朝一夕ではできません。少しずつ、自分の納得する部分から変えていくのが一番です。タバコなどのように習慣になるものでもその怖さがわかれば、だいたいの人がやめる気になるようです。
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いろいろなものを食べたり、お酒を飲んだりすることは、決して悪いライフスタイルではありません。お酒にしろ、要はいかにうまく付き合えるかということです。
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心と体は密接につながっています。ですから、心のライフスタイルも大きく私たちの健康に影響を及ぼします。ストレスはこの現代社会ではどうしても溜まってしまうので、リラックスしてストレスを解消する何らかの方法を、自分のライフスタイルの中に取り入れていくことが求められています。
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たとえガンが発見された後でも、生活習慣を改めれば治療成績はかなり向上します。逆に治療を受けた後でも、ライフスタイルを改善しないのならば、再発の危険性などがグンと高くなります。